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言う。

冷徹な瞳は揺らぐことを知らない。まっすぐにこちらを見て、小さく微笑った。


「なんて顔をするんです。」

「うるさいな」


目をそらして、そっけなく言った。

また、微笑う。

彼の長い髪はひとつにくくられ、当たり前だが真っ黒な喪服に栗色の軌跡を描いていた。

風が強い。


「いい加減、泣き止みなさい。みっともないですよ?」

「いいんです。みっともなくありません。大切なひとの死に、我慢する必要なんてないんだから」

ずず、と鼻が鳴った。

涙でかなり濡れてしまったハンカチを鼻に当てる。

「はいはい」

眼鏡ごしに、赤い瞳が細められた。
肩に手が回されたのがわかる。




-----戦死、だった。

彼はジェイドよりも年上で、地位も上だった。人懐こく笑うひとで、人望も厚かった。現に、彼の葬儀にはたくさんの参列者で溢れている。みな涙し、それぞれに別れをつげている。


「--惜しいひとを亡くしました。」

「えぇ…」

未だ肩を抱いてくれる夫は、涙ひとつながさない。普段の彼と、なんら変わりなかった。

「…これから忙しくなりますね。」

そんなことを言う。


私は冷たいですから

と前に彼はそう漏らした。ぽつりと、そして唐突に。



「---あなたを」

「え?」


「あなただけが冷たい人間なはずはありませんから」


目からは涙が溢れる。亡くなった彼との思い出が浮かんでは、もう会えないことを痛感させる。また、溢れた。



ジェイドは何も言わなかった。ただ肩に回していた腕を、そっと離した。

定位置に戻った腕に触れて、掌を合わせてゆるやかに、きつく繋いだ。



わかっている

あなたが泣けないことも泣かないことも

それを、死を理解できていないからだと彼は思っているが----違う。



十分すぎるほど理解できているから、涙を流さないのだ。
悲しむ必要がないのだ。



ゆっくりと、彼の入った棺は運ばれていく。


また、涙が流れたのがわかる。



こんなにも涙が止まらないのは、泣けないとか思ってる旦那のぶんも泣いているのだと、思った。









=====
唐突に名前変換する必要のないアビス小咄。


亡くなった上司の葬式に出る夫婦。

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